足立製作所日記

デジタルツールを使ったものづくりのブログです。何でもこしらえてみましょう。

プロとアマを隔てるもの

こんにちは。

少し技術関係の本を読んだのでその紹介がてら、思いつくまま書きました。毎度のごとくそんなに大したことではないですw

例によってTwitterから転載。

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基準値のからくり (ブルーバックス)

基準値のからくり (ブルーバックス)

 

 

本屋でふと目について読んでみた本だったが、これが結構面白い。放射線とか農薬とか水道水とかそんなものの基準値がどうやって決まっているか解説した本である。この基準値に関する本を読んでいたら昔にやっていた仕事のことを思い出した。

 

技術開発はその初期に訴求目標(カタログに記載しているようなこと)や技術目標を決めて行っていくのであるが、簡単なようでいてこれが結構ややこしい。何がややこしいかと言えば「明確な正解がない」というところなのだ。

 

量産品の設計開発のような仕事であれば、試験の項目はほぼ決まっており、目標値も明確に定められている。設計者はそれらの目標値をクリアするように設計して、試作品を作り、定められた試験を行って品質が保たれているか評価していく。

 

一方、技術開発はそうではなくて、技術目標そのものから自分で決めていく必要がある。その決めていくプロセスが、放射線や農薬や水道水の規制値を決めていくのと良く似ているのだ。というか、その本質的なところは全く一緒と言ってよいと思う。

 

簡単に言うと、安全性に関するものならゼロリスクというのをどう考えるか、品質に関するものなら、お客様が受け入れられるリスクはどの程度か、それから決まった技術目標を実現するのにどれぐらいコストがかかるのかということ。対象が公衆衛生と一般消費者という違いはあるけれども本質は同じ。

 

この開発初期の技術目標は通常2~3人ぐらいでまとめていくのだけれども、正解がない性質のものなので上手くけりをつけてまとめないと収拾がつかなくなる。

 

私がいた会社に限らず、およそ技術者や設計者と呼ばれる人種は、理屈よりもモノをつくってなんぼと考える人も結構いると思うのだが、この技術目標をしっかり決めておくというのがその後の開発実務の質を大きく左右する。目標があやふやなまま開発に突入して、後で紛糾するというのはよく見かける悲劇だ。そして私もその悲劇にどっぷり浸かったことがある。

 

私の全く個人的な意見なのだけれども、この技術目標を決めるというプロセスが、モノづくりのプロとアマを隔てる壁なんじゃないかと思うのだ。近年の安価なデジタルツールの普及でモノづくりの下流部分は一般にも普及してきた。でもそれだけでまともなモノは作れないのではと思う。

 

何を持って「まともなモノ」とするのかは色々議論があるけれども、一つの答えは、作ろうとしているモノが、何かの課題を過不足なく解決しているかということかなと思う。その課題は便利さであったり、楽しさであったり、安さであってもいいのだけれども、何らかの役に立っていますかということ。

 

役に立つこととは何かという「問い」を自らたて、それを解決するためにはどうあるべきかを考える。これを技術目標として誰にでも明確に分かる数字として定義する。そしてその数字をクリアすれば必ず何らかの役に立つ。これが私の考えるまともなモノ。

 

技術目標をきっちり定義するという作業も、実はやっていることはそんなに大したことではなかったりする。極論を言えば本当の最初期は技術的な知見すら不要で、必要なのは自分自身の感覚とか、生活観察とか、そういう類のものの方が役にたったりする。そしてそういう感覚を数値に変換していく手法を知っていれば技術目標を決め込んでいくことができる。

 

最近のMaker'sムーブメントを見るときに、面白いアイデアという最上流のことと、デジタルツールを使ったモノづくりという下流のことは存在するけれども、その中間をつないでいく方法論というのはあまり聞かないと思う。いずれは皆そういう課題にも気づき、話題としてでてくるんじゃないだろうか。

 

モノづくりにおいて、プロとアマの壁は確かにあるけれども、それは今やかなり薄くなってきている。プロをプロ足らしめている手法を知っているかということと、それを徹底してやれるかどうか。これは何度も言っていることだけれども、まじめに取り組んでいる人にはその壁が見えているはず。あともう少しで打ち破れるかもしれない。

 

また気が向いたら何か書きます。